すべての旅行が終わりふと気づいたらスイスはもう秋になってしまっていた。あの悪名高きマロニエの木々がその実をたわわと実らせいつ何時か落ちんといったようそうで外皮のイガイガに磨きをかけております。これからは時系列を逆にして、つい最近行った旅行から1か月前の旅行まで辿っていきたいと思います。というわけで、おフランスはおパリへ旅行に行きました。あれは春の頃、ここから遠い国から一枚の絵葉書が届き、わたしのパリ行きは決まったのでした。マンデルが3週間の旅行を計画していて、ポルトガル、スペイン、最後にパリとやってくるので会いませぬかという内容。夏休みのポルトガル旅行はすでに計画していたので、最後の場所であるところのパリで会いましょうと絵葉書で返信をした。

パリのCharles de Gaulle(シャルル・ド・ゴール)空港はチューリッヒからAir France(エール・フランセ)にのって1時間弱。わたしは前日にドイツ旅行から戻ってきていたのでくたっと身体を折り曲げるようにして爆睡。小さい飛行機の飛行で到着したところは短距離飛行用のターミナルだったので、飛行機からバスに乗るのではなく、そのままタラップを降りて飛行場をすたすたと歩く。そこから無料のシャトルバスに乗り、運転手のお兄さんに、これは駅に行くの?と聞くと、うむ、とうなずいてくれたので、そそくさと乗り込む。シャルル・ド・ゴール空港の大きいターミナルは遥か彼方なのでした。

1日目は単独行動であったので、列車とメトロを乗り継いで何よりも真っ先に行ったのはオペラ座通りのそばにあるBOOK OFF。バックパックを担いだまま、久しぶりの日本語の本屋に心躍らせる。入るなりアジア圏の顔をした女性が「いらっしゃいませー」という。わたしの後ろを通ろうとするどうみても日本語がネイティヴでないはずの店員さんなのに、「すみません、失礼します」という。2時間ほど滞在してしまって、いざレジに向かうとこれまた日本語がネイティヴでないはずの店員さんに「ポイントカードはお持ちですか?」わたし「いいえ」店員さん「お作りしましょうか?」と、え?わたし日本語を話しますけど何か?といった面持ちでとても流暢な日本の言葉を話されるので驚いた。とても不思議な空間である。あのBOOK OFFの店内で流れる「本を売るならぶっくおふー」という歌や、店員さんのあの変な(失礼)「いらっしゃいませぇえええ」といった言葉や清水邦明さんのおなじみのアナウンスもない。それだけが日本と違うだけ。パリ仕様のBOOK OFF。価格はというと日本円の十の位以下をなくした金額にユーロといった価格であって安くはないのであります。1000円の本だったら10ユーロ。中古の値段でこれくらいならば、近くにあったジュンク堂はどれだけするのやらと思いましたが、入ってないのでこれはわかりません。また、オペラ座通りの近辺は日本食料理屋の多いこと。
ここからわたしの泊まるホテルが位置する場所は左岸のラテン地区にあり、ソルボンヌ大学の真ん前にあるので、そこまで雨の中を歩く。途中、足首までのスカートでジップアップのパーカーを着ている女性の団体がちらりを見えるとそのうちの一人が来て、「英語を話せますか?」というので、答えるわたしもばかであるが、「ちょっと」というと、子供らしき字で書かれたよれよれの絵葉書を見せられて「国にわたしの子供がいてご飯を食べさせてあげたいの、お金をちょうだい」と言ってきた。でも、こういうのは本当なのか嘘なのか本当に本当にわからないので「急いでるから、失礼します」といってその場を去った。この格好をした女性はルーブルの近辺にもいたしいろんなところにいるし、またジプシーの人なのであろうか、足を引きずって杖をついて、片手に紙コップを持ってお金をちょうだいという年配の女性もたくさんいた。こう言ってはなんであるが足の引きずり方もものすごく似ている。メトロの中ではおじさんがアコーディオン(鍵盤型の)で一曲弾いて、終わると紙コップを手に持って、紙コップの中にあらかじめコインを入れているのか、それをチャラチャラと鳴らしながら「ムシィゥー、マダーム」と車内を歩き回る。雨が降りそそぐ中、歩道の真ん中に座って頭は垂らしてお金を下さいという人もたくさん。そいう言う人たちを見ながらホテルまで歩く。たくさん歩くいてふらふらになるくらいがわたしにはちょうど良い。
それから、やはり鹿島茂氏の本を読んじゃったものだからLE BON MARCHE(ル・ボン・マルシェ)へ。食料品売り場が何よりも楽しい。Aristide Boucicaut (アリスティッド・ブシコー)と妻の Marguerite(マルグリット)が作り出した夢のデパートは当時とは変わってしまったかもしれないが、現代に合わせたうっとりする空間であるように思われる。陳列もうっとり。ショーケースに並ぶお菓子もすべてが宝石のようである、というのは言いすぎかもしれないけれど、いいねえ、これぞ、ザ・デパートです。お惣菜の場所も、やはり都会であり、いろんな人が住んでいるところであり、美食の街であるせいか品揃えもとても充実していてとくに中東圏というくくりでよいのであろうか、これのお総菜がこんなにそろっているところはいまだ見たことがないくらいの多さでした。そしてどれも興味深い。ちょっと多いかなというくらいのわたしの晩御飯を買い、Le Jardin du Luxambourg(リュクサンブール公園)までぷらぷらと歩いていると、素敵な格好をしている子連れのお母さんだなあと思って、二人を通り過ぎると、「Pardon」と言われて「はいはい、なんでございましょう」と答えると、「あなたの履いているジーンズ格好いいわね、どこのなの?」と聞かれた。おお、ここはお洒落の国でもあったのでした、チューリッヒの街中では一回も言われたことないことを聞かれました。ふふふ。このジーンズはお気に入りなのです。夫の人と同じラボでDJをやっている男性にも気に入られているこのジーンズは男性、女性問わず、いいのであるなあと嬉しくなりました。わたしがジーンズのブランドを教えると、お母さんと子供は念仏のようにブランドの名前を唱えていました。このジーンズはパリの人には好評みたいでほかの女性にも聞かれました。ふひひ。
それでもって公園で西日にてらてらと照らされながら椅子に座ってBOOK OFFで買った本をさっそく読む。あああ、面白い。そんなこんなで一日は過ぎてゆくのでした。


LE BON MARCHEのHPの音楽もすごく素敵である。


買った本(日本で保管している本も多数買ってしまった、すべては旅のせいということで)
嵐山光三郎「追悼の達人」新潮文庫
奥泉 光「鳥類学者のファンタジア」集英社文庫
武田百合子犬が星見た」中公文庫
舞城王太郎九十九十九講談社文庫
吉村 昭「アメリカ彦蔵」新潮文庫
吉村 昭「海の史劇」新潮文庫
サンテグジュベリ・池澤夏樹訳「星の王子様」集英社文庫
レイモンド・チャンドラー清水俊二訳「さらば愛しき女よ」ハヤカワ文庫



カナダの人が国旗をリュックサックに縫い付けるというのは本当なのだなと自信が確信に変わりました。