依然約束事は死守されてきたわけなのですが、いったんその約束事を破ってしまうと、俄然おかしくなってしまうのは本当のことで、その約束事というのは、まったくもって大したことないのですが、「スイスではCDを買わないこと」だったのです。だった、と書いた時点ですでにこの約束は過去のものとなっているのですが、さてはて、スイスでは、少なくともここチューリッヒではタワレコはなし、HMVもなし、新譜が置いていCD屋さんもあるのはあるのですが、その貧弱さたるや哀しいものでして、はたまた中古屋さんにはひかれるものの、いわゆるCD屋さんには寄りつかなかった、もとい近づかなかったのでした。だがしかし、われわれわれわれわれには、Musikhaus Jeklinがあるのです。当初、私はこのお店を外から見える1階部分だけしか見ていなかったので、まさかあの地下には素晴らしい空間が広がっていようとは思ってもいませんでした。最初にそこの地下世界(!)をおずれたのは、隣に住んでいるあんちゃんがめでたく結婚しまして、妻となる女性が住むようになり、それからなのです。メリケン出身の女性はとてもキュートでありまして、一緒に家で茶をしばいたりする仲となりました。ちなみに今日もさっきクッキーを夫の方と一緒に持ってきてくれました。ひひひ。それでもって、ある機会にこのJeklinに行くことになったのです。私はその地下世界を知らず、興奮して、Jennyさんに「もうどうしよう」とか「狂っちゃいそうだわ」とか「ここで一日中過ごせるわ」などと鼻の穴膨らませてこの熱いKIMOCHIを伝えたのち、3日後、夫の人と一緒に私たちにとっては危険な地下世界へ乗り込んだのでした。もちろん、買わないということを絶対条件としていたのですが、ここの素晴らしいところは、新譜も全部試聴できるのです。ちゃんとパッケージがしてあるやつでも、店員さんにお願いすればすぐさま開けてくれて、しかも、試聴機がなんでしょうかあれ、ステレオのCD部分から直接でかいヘッドフォンにつなげて聞くというスタイルでありまして、それが円形に配置されておりまして、みんなの真剣なそして楽しそうな試聴風景を見ることができるのです。そして何より、毎日、アイポッドのぺなぺな音に慣れてしまった鼓膜には、涙するくらいよい音なのでした。そしてここならではなのでしょうか、ポーランド旅行でレストランのライブで聞いて気になっていたKlezmerのCDもありまして、試聴機の横にはCDを積んで夫の人と長時間視聴をいたしました。結果、そりゃそうです、よい音楽はよいのです、厳選に厳選を重ね、そして、約束は破られ、対価としてのスイスフランをいくばくか支払うこととなりました。これでちょっとタガが外れちゃいまして、次回はヘブライ語がブラブラブラーと書かれた、KlezmerのCDを二枚買う予定です。


頑張って厳選した三枚です。しかもAktionなのでどれも9.9CHFです。

Albert Ayler "New Grass"
Eric Dolphy "Out There"
Eric Dolphy Quintet "Outward Bound"


Aylerの音楽はもう素晴らしく、Dorphyの音楽も素晴らしく、どうしようかと、どうしたらよいのかと思います。



Dorphy先生、ご自分のソロが始まるまでびくともしないあたりおっかないです。