同じ語学学校のタイ出身のヌーさんのおかげで、スイスに来て覚えた料理というのがスイス料理よりもタイ料理の比重が多くなってきました。そして辛い食べ物にも慣れてきて、最初は青パパイヤのサラダ、その名もソムタムに入れるチリ1個(with 種)だったのがだんだんと麻痺してきて1個じゃ、ちょっと物足りないかなという雰囲気が食卓の上で漂っています。しかしながらひとつを越えるとその上はきっときりがなくなるなのであろうと思います。ヌーさんのうちでヌーさんの友達とタイ料理ミーツ日本料理(主にSUSHI, TENPRAですが)の食卓を囲んだ時、作ってくれたタイ料理の一つ、ソムタムに入れるチリは30個という、恐ろしい数が入っていました。しかしながら、ヌーさんは優しいので私でも食べれる辛さにしたものを別に作ってくれたのですが、それですら辛い、舌は痺れ、鼻水は止まりません。そして辛いからと言って水分を取っては余計に辛くなるので、タイの小さい茄子をかじったり、よくわからないけれどこれまたタイの葉っぱを食べたりします。でも、辛い料理と辛い料理の間に求める辛さを和らげる食べ物はなんとすし飯がしっくりきました。それでもって、なぜにこんなに簡単にタイの食材が手に入るのかというと、私の家の近くにはアジアの食材、主にタイの食材を輸入しているお店というか大きな問屋みたいなのがあって、タイの調味料や野菜や香草やらがものすごく格安で売ってあるのです。スイスに空輸で飛んできていて、かつ物価の高いスイスにおいてこの破格の値段をみると、タイの物価はどれだけ安いのやらと思いました。お店を経営しているであろう人も買いに来ています。どんだけコリアンダー使うとですか、と突っ込みを入れたくなるくらいの量を買っていたり、ニューハーフの人がお色気むんむん(美しい人もそうでない人もいます)で、買い物かごにガスガスとタイの食材を入れているのを見たり(きっとタイ料理に飢えてイライラしているのだと思われます)、人を見るだけでも面白いです。そしてタイ出身の人は特に知り合いでなくても、バスの中でも、タイ出身同士であれば、目が合うなり「サワティカー」と挨拶するのは習慣のようです。素晴らしい。

それから、今まで食べた中で一番まずい果物もヌーさんによって紹介してもらいました。それはヌーさんのおじいさんおばあさん世代の頃から伝わる、喉の調子が悪かったらこれを食べれば医者知らずという果物であって、それがインド出身の人が経営するお店に売ってあったので、懐かしくて買ったよというのを食べさせてもらいました。大きさは巨峰一粒くらいの大きさ。噛むのも難儀であり、噛めば口の中の水分が全部奪われるような、焼けるような味。去年栗と間違って味見をしたマロニエのえぐみなんてかわいいものです。それを涙と鼻水を垂らしながら、急いで食べることはできないので、ゆっくりゆっくり、ヒーヒー言いながら噛み、飲み込んで、たくさん咳をする。その後、水をたっぷり飲む。そうすると器官が浄化されてよいのだそうだ。私は至って健康な時に食べたのでその効果のほどはわかりませんが、確かにヌーさんはちょっとガラガラ声だったのだ、いつもの美声に戻っていたので、良薬口に苦しというのは本当よのう、と思いました。でも、あれは気を引き締めて食べないと、あんな小さな果物に負けてしまいそうなくらい、強烈な果物でした。